むらまつ小児科

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Do-Re-Mi

Do-Re-Mi

倍音からピタゴラス音律まで

音の高さというものは、本来連続的に変化するもので、チェロの弦の上を、糸巻きの方から駒の方へ指でおさえながら滑らせていくと、音は連続的に変化していきます。

一方ピアノの鍵盤を眺めてみると、1オクターブに12個の鍵盤があります。どうして12個なのでしょうか?鍵盤の音高はどのように決められるのでしょうか?白鍵と黒鍵はどのような関係なのでしょうか?

 

コレドールの「カザルスとの対話」という本のなかに次のような一節があります。(パブロ.カザルスはスペインの伝説的なチェロ奏者)

完全な音程というような、演奏の本質的要素の一つが、いまだにしばしば教授たちによっておろそかにされているのは残念だ。過日私は、ある若い生徒に最初のレッスンをした。セロのひき方をどんなふうに教わっていたかとたずねると、彼は、ピアノの平均律の音程どおりに、と答えた。こんな始末なのだよ!やれやれ、これから彼を待っている勉強ときたらね!

中略

弦楽器を学ぶものにとって、表情的、絶対的正確さを覚えるのは大変むずかしいことなのでしょうか?

もちろんだ。で、私は、この基本的問題は、勉強の最初から取り組まなくてはならないと言おう。生徒がこの正確さを知覚する素質をじゅうぶんに持たないか、あるいは、平均律の音程に妥協することに習慣づけられたものには、聴覚の特別な注意を必要とする。

完全な音程とはどのようなものなのでしょうか?またピアノの平均律の音程とはどのようなものなのでしょうか?

ビルスマの演奏にはびっくりしましたが、バロックバイオリンと呼ばれる古楽器の音色にも本当にびっくりしました。ガット弦から生まれるノンビブラートの無理のないその音色は非常に魅力的で、これまた脳裏に焼き付いています。

ビルスマとその仲間達の演奏会で聞こえてきた音は、今までに聞いてきた音とは明らかに違っていました。楽器の違い、弓の違い、弓使いの違い、ガット弦の音色、いろいろ考えられますが、倍音豊かな音色というのが根本にあるようなのです。

ところで、いったい倍音とは何なのでしょうか?

ある一定の振動数を持つ音(基音)が発生するとき、基音との振動数比が自然数の音が、基音に共鳴して、同時にいくつも鳴っています。2倍音、3倍音、4倍音、5倍音、6倍音、7倍音、ずっと続きます。倍音の数は、自然数の数だけ(すなわち無限)あるといわれています。この倍音の状態が、その音の音色を決めるといわれています。

この中で、2,4,8,などの2のn乗(nは自然数)で表される倍音は、数も一番多く、協鳴度も高く、音高の違いはあっても同じ音の仲間として感じられる特別な倍音です。1倍音(基音)と2倍音との音程差(振動数比で1/1から2/1まで)はオクターブ(8度)と呼ばれ、音高を決める上での絶対的な基準となっています。

オクターブの関係から、3×(2のn乗)の倍音も同じ音の仲間として感じられます。5×(2のn乗)の倍音、7×(2のn乗)の倍音も同様ですから、整理しますと、2,3,5,7,9,11,13,15,(×2のn乗)の倍音が残っていきます。

これらの倍音の音の発生数は1/2,1/3,1/5,1/7,1/9,1/11,1/13,1/15,の比率でだんだん減っていきますから、共鳴する倍音としての意味づけは倍音の数字が大きくなるにつれて段々小さくなっていきますが、どこまで行っても0になることはありません。

2,3,5,(×2のn乗)の倍音の基音に対する振動数比をオクターブ変換(2で割る)することにより、1/1から2/1(1オクターブ)の間に持ってくると、2/1,3/2,5/4,7/4,となります。これを小さい方から並べ替えると、(1/1),5/4,3/2,7/4,2/1となります。

 

基音(固定)と、基音から1オクターブ上まで連続して動く音とを同時に鳴らした時の不協和度(不協和として感じる程度)を調べたデータがあります。基音は十分な倍音を出すとの前提です。総合的不協和度曲線では、基音に対する振動数比で6/5,5/4,4/3,3/2,5/3,7/4,2/1 の点で急峻な谷を作ります。その点の音の、基音に対する物理的特性が、耳にとても反応しやすいということです。振動数比で5/4,3/2,7/4,2/1の音は上にあげた倍音そのものですし、振動数比で6/5,4/3,5/3の音も広義の倍音にあたります。楽器によってはこのような分母が奇数になるような音も派生しているのです。不協和度は、振動数比で2/1の音で一番小さく、次に3/2,4/3,の音、次に5/4,6/5,次に7/4の音と続きます。

チェロの弦で一番音の高い開放弦はA線ですが、隣のD線上にAの開放弦と同じピッチの音を取ります。そこから指を駒のほうへゆっくり滑らせて、A線(開放弦)とD線を同時に鳴らしていくと、不協和音のなかに共鳴する澄んだ音を識別することができます。

3/2,4/3の音はひときわ共鳴度(識別度)が高く、5/4,6/5の音が続きます。7/4の音も十分識別可能です。2/1の音の識別度は特別高くなっています。

これらを利用すれば、連続する音の中から点としての音を選び出すことができるのです。

まずある一定の振動数をもつ基音を決めます。基音に対する振動数比6/5,5/4,4/3,3/2,5/3,7/4,2/1などの簡単な有理数の振動数比で得られる音を耳で選び出し、これらの音を使えば良いのです。さらに、基音を自由に移し変えて、さらに簡単な有理数の振動数比で得られる音を作り出して行けばよいのです。

ところが、ここで困ったことになります。選び出す簡単な有理数の振動数比の音には限りがありますが、基音を自由に移しかえると、新しい音がどんどん増えていくのです。

基音の移動を全く自由にすると、音の数は無限に膨れ上がるのです。

さて、すべての自然数は、素数の積で表すことができますが、振動数比の有理数も、一般に

(2のa乗)×(3のb乗)×(5のc乗)×(7のd乗)×(11のe乗)×  )

(2,3,5,7,11,は素数列、a,b,c,d,e,は任意の整数)で表すことができます。(素数列、整数ともに無限)

この中で、簡単な有理数の振動数比というのは、通常、2、3、5、7の素数を使った簡単な分数となります。11/8という11倍音も使用出来るようです。

その中でも基本の基本、(2のa乗)×(3のb乗)の音の仕組みは、どのようになっているのでしょうか?

(2のa乗)の音はすべて同じ音の仲間として感じられる特別の音ですから、3/2の累乗列の音をオクターブ変換して、1オクターブの範囲内に並べて、どうなるかを見てみます。

あわせて(2のa乗)×(5のc乗)の音の仕組み、また、(2のa乗)×(7のd乗)の音の仕組みも同じように見てみます。

ここまでは音の高さを決める方法として、振動数比を使ってきましたが、これからの話にはこれでは不便なので、変わりにセントという概念を使います。

これは基本的には振動数比の常用対数のことで、振動数比2/1の常用対数log2が1200になるようにそれに1200/log2を係数として掛けます。

つまり振動数比Xのセント値は1200logX/log2で求めることができます。

log1/1は0ですから、1/1から2/1のオクターブが0から1200のセント値で表すことができます。指数関数の変化を1次関数で表すことができ、掛け算を足し算に変えて扱えるようになります。平均律のピアノの半音が100セントに当たります。

さて振動数比3/2の音は701,955セント(その基音との音程差を完全5度といいます)に当たりますが、その累乗の音をセント値で表すには701,955セントをどんどんたしていけばいいことになります。基音を1個目として12個までの音のセント値を求め、それをオクターブ変換(1200を引くこと)して小さい方から1オクターブ内に並べると11個の音は

090,225

113,685

090,225

113,685

090,225

090,225

113,685

090,225

113,685

090,225

113,685   セントの間隔で並びます。

次の12個目の音は11個目の音から090,225セント上の1223,460セントの音になりますが、これは基音の1オクターブ上の1200セントより23,460セント高い音になります。この音程差をピタゴラスコンマといいます。これからしばらくの間は、直近の既成の音との間隔が23,460セントの音が作られていきます。直近の既成の音との音程差は段々小さくなっていき、限りなく0に近づいていきますが、0になることはありません。

振動数比が、(2のa乗)(×3のb乗)で表せる音は、1オクターブに無数に存在します。この数は、b=0のときのみ、2倍音と一致します。それ以外は2倍音と一致することはないのです。

次ぎに5/4の累乗の数列をセント値変換して見てみます。同じようにして12個までの音の間隔を見てみると

263,140

041,058

041,058

304,198

041,058

041,058

041,058

263,140

041,058

041,058

041,058   セントの間隔で並びます。

さらに7/4の累乗の数列を同じようにしてみてみると

043,854

187,375

043,854

187,375

043,854

187,375

043,854

043,854

187,375

043,854   セントの間隔で並びます。

5/4の場合は累乗の3個目の音で早々と基音に41,058セントまで近づき、28個目までそれ以上基音に近づくことはありません。

7/4の場合は累乗の5個目の音で基音に043,854セントに近づき、26個目までそれ以上基音に近づくことはありません。音と音との間隔の差も大きいですし、これらの累乗列を利用して音律(音楽を作る音の仕組み)を作るのは無理なようです。

以上の2つの累乗列に較べ、3/2の累乗列をオクターブ変換して得られる音は、12個目以降は23,460セントのピタゴラスコンマが、最小の音程差になりますが、11個までの音は間隔のばらつきも少なく、奇跡的と言ってもいいくらいうまくできています。

途中でピタゴラスコンマだけ短い5度を作って、(オクターブ変換なしの場合)12個目の音が、最初の音の7オクターブ上の音と等しいとすれば、無限の音の世界を離れて、閉じた音の体系として使えそうなのです。このためには、ピタゴラスコンマだけ短い5度を挟んで、上行性の音だけでなく、下行性の音(2/3の累乗列の音)が必要になります。

この考え方による閉じた音の仕組みをピタゴラス音律といいます。

ところで、ピタゴラスコンマの辻褄合わせはどの様にするのでしょうか?ピアノの鍵盤を見てみるとその考え方が見えてきます。

(ピアノの鍵盤の配置は基本的にピタゴラス音律の考え方によっています)

Cの音を基音として、その上に完全5度(振動数比3/2)の音を重ねて行くと、G(ソ)、D(レ)、A(ラ)、E(ミ)、H(シ)に相当する音が得られます。Cの完全5度下がF(ファ)です。これでピアノの白鍵部分が得られます。ピアノの黒鍵部分はその他の音に相当します。ピアノのFの白鍵の下にも、完全5度を黒鍵上で重ねて行きますから、辻褄合わせのピタゴラスコンマの処理は黒鍵部分でといっているようです。

時々白鍵と黒鍵が逆になった鍵盤を見かけます。ピタゴラスコンマの処理はどこの部分でも可能です。この楽器はどのような調律になっているのでしょうか?

ピタゴラス音律の基本的な条件をまとめてみますと、

①2倍音(オクターブ)は絶対である。

②使用する3/2の累乗列の音は、普通11個まで、2/3の累乗列の音は6個まで。

③場所は問わないが、ピタゴラスコンマの処理が必要。となります。

音楽を作る音の数を現実的な有限個にして、基音を変えても倍音関係は欲しい。この目的のためには、この2倍音と3倍音の関係以上のものを求めるのは基本的に無理なようです。事実、すべての音律はピタゴラス音律をその母体としています。

 

ピタゴラス音律のこと

ある基音を定め、その音から上行性に完全5度の音(振動数比で×3/2の音)をどんどん取って行くと、12番目の音は、基音の7オクターブ上の音より僅か上の音になります。

下行性に完全5度の音(振動数比で×2/3の音)を取っていくと、同じように12番目の音は、基音の7オクターブ下の音より僅か下の音になります。

この音程差をピタゴラスコンマ(23,460セント)といいます。

この上行性と下行性の11番までの音を、時計の文字盤になぞらえて表す方法があります。

基音を12時に取ります。12時から12時までの時計回りの一回りを、1オクターブ(1200セント)とすれば、上行性の場合、5の累乗の音列のうち、①番目の音は7時の位置(少し時計回りにずれます。)にきます。②番目の音は2時、③番目の音は9時、④番目の音は4時と続きますが、これらの音を1時から順番に並べてみると、

⑦ ② ⑨ ④ ⑪ ⑥ ① ⑧ ③ ⑩ ⑤

となります。下行性に音を取っていってもおなじ並びになります。一目では分かりにくい順番になっていますが、これはピアノの鍵盤の音の並びを示します。(ピアノの音はピタゴラス音律ではありませんから、音程は少しづつずれます)

② ④ ⑪ ① ③ ⑤  が白鍵

⑦ ⑨   ⑥ ⑧ ⑩  が黒鍵にあたります。

 

見やすく並びかえると

⑦ ⑨   ⑥ ⑧ ⑩

○ ② ④ ⑪ ① ③ ⑤  (○は基音)となります。

12時から12時までの時計回りの一回りを、7オクターブ(8400セント)とすれば、①番目の音の7時の中心角210°は1/7の30°になり、②番目の音の2時の中心角420°は、1/7の60°となります。③番目の音の中心角630°は1/7の60°となりますから、結局文字盤の数字と累乗音列の順番が一致することになります。すなわち、1時から順番に並べてみると

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪

となります。上からわかるように

⑪ ① ② ③ ④ ⑤  が白鍵

⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩    が黒鍵の音にあたります。

(ピアノの鍵盤の並びとは無関係)

下行性に音を取っていってもおなじ並びになります。この時計を使うこととします。

基音を12時に取ります。完全5度の上行性の音を、黒い点で時計回りに1時、2時、3時と11時のところまで取っていきます。完全5度の下行性の音を赤い点で11時、10時、9時と反時計回りに1時のところまで取っていきます。

そうすると、1時から11時までの(12時から30°づつの)場所にに黒い点と赤い点が、ピタゴラスコンマ間隔(の1/7)で隣り合って2個ずつ、合計22個の点が並びます。

1時のところでは、赤い点がより12時に近く、11時のところでは、黒い点がより12時に近くなります。

12時の基音を加えた23個の音のうち、1時から8時までは黒い点を、9時から11時までは赤い点を取れば、それに基音を加えて、12個の音からなる音律が出来上がります。

この音律をピタゴラス音律といいます。この音律は12個の音が完全5度(×3/2)で結ばれた、西洋音楽の基本となる音律です。

狭い5度を移動できれば、転調がより自由になります。基音が完全5度だけ動くと、必要な音は1個増えます。基音が完全5度×nだけ動くと必要な音はn個増えます。

基音の移動が、赤い点も黒い点も3つまでとすれば、必要な音は、6(3×2)増えて18個となります。内訳は赤い点6個(6~11時)、黒い点11個(1~11時)、基音となります。

基音の移動が、赤い点も黒い点も6個までとすると、必要な音は、12(6×2)増えて24個となります。内訳は赤い点9個(3~11時)、黒い点11個(1~11時)、基音、基音よりピタゴラスコンマだけ時計回りの点、黒い点よりピタゴラスコンマだけ時計回りの点2個(1~2時)となります。各時に音2個の配置です。

ドレミファソラシドとは、基本的には、ピアノの白鍵部分(ピタゴラス音律で11時から5時までの音に相当する)のことです。ピタゴラス音律によりドレミファソラシドの原型が出来上がりました。しかしこの中で基音に対する簡単な有理数の比からなる音はF(ファ)の×2/3、G(ソ)の×3/2、D(レ)の×9/4だけで、基音との比で、人間の耳で聞き分けることのできる音はF(ファ)とG(ソ)の2つだけなのです。

ピタゴラス音律に5倍音を

完全5度音程を4つ重ねると702×4=2808セント。これを2オクターブ下げると408セント。これからピタゴラスコンマの24セントを引くと384セント。

これは長3度(×5/4)の386セントと2セントしか違いません。

ピタゴラスコンマだけ狭い5度と、3つの完全5度を重ねて作る音は、オクターブ変換すると長3度に非常に近くなります。

このことにより、捨てたはずの5倍音が復活することになるのです。

ピタゴラス音律では、ピタゴラスコンマを黒鍵部分の一番目立たない5度に押しつけました。発想の転換で、ピタゴラスコンマを180度移動させ、白鍵部分の一番目立つ2時と3時の間に持ってくるのです。

そうすると、Cを基音とした場合、D-A(3時ー4時)が24セント短くなりますが、その代りに、F-A(11時ー3時)、C-E(0時ー4時),G-H(1時ー5時)、D-F♯(2時ー6時)の4つの音程が長3度に非常に近くなるのです。

11個の完全5度と4個の長3度に非常に近い音程が得られるこのピタゴラス音律の亜型も、移調に伴う基音の移動に伴い、それに合わせて、24セント短い5度も移動しなければなりません。

基音の移動が、赤い点も黒い点も3つまでとすれば、必要な音は18個となり、基音の移動が赤い点も黒い点も6個までとすると、必要な音が24個となるのはピタゴラス音律の場合と変わりません。

 

ピタゴラス音律から純正律へ

先の音律では、D-Aの5度(2時と3時の間)を24セント縮めましたが、これを22セントにしたらと考えるのは自然の成り行きです。残りの2セントは黒鍵部分の目立たない5度で処理すればいいのです。

これで4個の長3度に近い音が、きっちり×5/4の音になります。

この音律では、12個の5度のうち、完全5度(a)は10個、22セント短い(b)のが1個、2セント短い(c)のが1個ですが、(b)を2~3時に固定すれば、11~2時は(a)、3~6時も(a)に固定されます。(c)が自由に動けるのは、6~11時の間ですが、とりあえず8~9時に固定します。

この、(b)を2~3時に(c)を8~9時に固定した時計にはどのような音があるのでしょうか。オクターブは修正して、1オクターブの中に収めるとすると、

1時は×3/2、2時は×9/8、3時は×5/3、4時は×5/4、5時は×15/8、11時は×4/3と、ドレミファソラシド全てが簡単な有理数の比で表せるのです。

分数を小さい方から並べると、

9/8(レ),5/4(ミ),5/4(ファ),3/2(ソ),5/3(ラ),15/8(シ)となります。

ピタゴラス音律と比べると、簡単な有理数の比からなる音としては、5/4(ミ)、5/3(ラ)、15/8(シ)が増えたことになります。これで ドレミファソラシド が本物の音で出来上がったのです。

ファとソが主役、ミとラが準主役、レとシが脇役の音律です。この音律を純正律といいます。

この音律には、人が聞き分けることのできる一番小さい音程差である6/5(短3度)の音も用意されています。上行性ではなく、下行性での3時の音です。

ピタゴラス音律をゆがめる方法で、2倍音と3倍音に5倍音を加えた音律をともかくも見つけたのです。

基音が振動数比でXだけ変わると、レミファソラシは(9/8)X、(5/4)X、(5/4)X、(3/2)X、(5/3)X、(15/8)Xの音になります。

基音が変わると、基本的には、新しいレミファソラシの音のセットが必要になります。これが、純正律の大きな特徴となります。ピタゴラス音律をゆがめた付けなのです。

基音の移動をピタゴラス音律上の音に限定した場合、必要な音はどのようになるでしょうか。

基音が5度動くと、必要な音は2個増えます。基音が5度×nだけ動くと必要な音は2n個増えます。

基音の移動が、赤い点も黒い点も3つまでとすれば、必要な音は、12(6×2)増えて24個となります。

基音の移動が、赤い点も黒い点も6個までとすると、必要な音は、24(12×2)増えて36個となります。

内訳は、赤い点9個(3~11時)、黒い点8個(1~8時)、赤い点より2セント時計回りの点11個(1~11時)、黒い点より2セント反時計回りの点2個(1~2時)、赤い点よりピタゴラスコンマだけ反時計まわりで更に2セント時計回りの点3個(9~11)、基音、基音より2セント時計回りの点、基音より2セント反時計回りの点となります。各時に音3個の配置です。

ここで問題になるのは、このような数多くの微妙な音を、ほぼ正確に出せるのは人(特にソプラノ)だけで、人間の作るすべての楽器では、程度の差はあれ、これが不可能ということなのです。

新しい組合せのドレミファソラシドを瞬時に感知し、表現できるのは、倍音の出やすい構造の喉頭を持った人だけなのです。

楽器では、バイオリンでのみ、ほとんど人と同じ事ができますが、バイオリンにしても、4本の弦を完全5度で調弦する限り、5倍音を持ち込むことには無理があります。

完全5度より22セント狭い5度も作らないといけませんから。4本の完全5度に調弦された弦のほかに、22セントづれた、さらに4本の完全5度に調弦された弦が必要になるのです。

弦楽器の基本は1本の弦で全ての音を賄うことです。開放弦の音が基音になります。 移調の場合は弦を変えます。その弦の開放弦の音が新しい基音になります。その弦でまた全ての音を賄うのです。こうすればどのような倍音も全く自由に扱うことができるのです。

全てを純正律でというわけにはいきませんが、2倍音、3倍音に加え、5倍音をできるだけ生かそうとする音楽では、人が主役です。楽器群は脇役になります。楽器の中ではバイオリンが主役になります。人とバイオリンで音を作り、管楽器その他が彩りを添えます。チェロや鍵盤楽器は音の枠組みを作ります。

微妙な音感を必要としますから、自分の出す音、他人の出す音が良く聞こえなければいけません。少人数の構成が原則になります。出す音もけして無理があってはいけません。

このような音楽は、例えば、バッハのカンタータの世界に見ることができます。このジャンルはバッハの音楽の約半分を占めますから、まだ当時の音楽の大きな部分を占めていたことがわかります。(バッハ以前は声楽が主体、以後は器楽が主体となっていきます)

オランダバッハ協会によるバッハのヨハネ受難曲の編成を見てみます。

その構成は総員20名、ヴォーカル総員9名、内訳はソロ6名、バックコーラス3名(女性1名、男性2名ー各声部1名)器楽総員11名、内訳はヴァイオリン3名、バス1名、チェロ1名、ガンバ1名、撥弦古楽器1名、木管楽器2名、キーボード2名。

同時には多くても10人未満の構成で、2時間もの長い時間を強烈な印象を与えながら

音楽は進みます。

しかし現在の音楽の主流はオーケストラとピアノです。すなわち、器楽の音楽です。

あくまでも少人数で音を聞きあうはずの小さな集団は、多彩な音を出せる色々な楽器を加え、音を幅広く豊かに表現できる大きな集団になりました。数の増えたヴァイオリンはヴィブラートの多用もあって、音程が少し甘くなります。

表現できる音は1オクターブ12個の決められた音だけですが、広い音域で、複雑で、幅のある、力強い音を生み出すことのできるピアノが楽器の王様となりました。

このような様変わりに大きく寄与したのが平均律という音律です。

平均律は、ピタゴラス音律のもとになっている赤い点11個、黒い点11個の音から作られます。

 

ピタゴラス音律から平均律へ

平均律とは、ピタゴラス音律のもとになった23個の音のうち、1時の赤い点と黒い点を一つの音で代表させ、2時の赤い点と黒い点も一つの音で代表させてというように、11対の黒い点と赤い点を、それぞれ一つの点で代表させて、これらの11個に基音を加えた拡張ピタゴラス音律の簡略版のことです。

1時の場合は赤い点と、より高い黒い点の間で、黒い点の2セント内側に、2時の場合は赤い点と黒い点の間で黒い点の4セント内側に、3時の場合は赤い点と黒い点の間で黒い点の6セント内側にというように、徐々に低くずらしていきます。

また11時は、黒い点と、より低い赤い点の間で赤い点の2セント内側に、10時は黒い点と赤い点の間で赤い点の4セント内側にと、より高くずらしていくと、時計回りと反時計回りでずれていく点が、6時では、黒い点と赤い点の真ん中で一致します。

これで12個の同じ音程差の音からなる音律が出来上がります。

時計回り、反時計回りともに、基音から近い音は、時計回りの場合は黒い点、反時計回りの場合は赤い点からのずれが少なく、遠くなるにつれて、ずれは大きくなりますが、6時における代表点までのずれは、時計回り、反時計回りとも12セントと、ピタゴラスコンマの半分にとどまります。特筆すべきはピタゴラスコンマの消失です。

2セントづつ狭くなる12個の平均律の5度は、すべて同じ700セントとなり、700と1200(1オクターブ)の最少公倍数は8400(7オクターブ)ですから、700を7で割ると100となり、1オクターブは100セント間隔の12の音からなることになります。

振動数比でいえば、2の12乗根が最小単位となります。2のn乗根であれば、nはいくつでも良いのですが、ピタゴラス音律にそっくりになるためには、nは12でないといけないのです。

セントに戻れば、100が音程差の基本単位となり、基音さえ決めればすべての音が100×n(整数)で決まります。

100は1に置き換えても差し支えありませんから、すべての音は整数nで決まります。すなわち、上行性でも下行性でも、どこからでも始めることのできる、オクターブの桁(12以上にはならない)と12音の2つの桁からなる、12進法の数字の世界となったのです。

一番恩恵を受けたのが、ピアノなどのデジタル楽器です。とりあえず、1オクターブ12個の揃った音が出せれば、難しいことは抜きで、音楽を、大威張りで自由に扱えるようになったのです。

でも、その代償は何なのでしょうか?

セントではわかりにくいので振動数比に戻しますが、すべての音は基音×(2の12乗根のn乗)で表されます。

(2の12乗根のn乗)は、nが12もしくはその整数倍の時のみ整数となります。

他はすべて無理数となります。

これからわかるように、平均律には、人間の耳が反応できる倍音は、2倍音しかないのです。2倍音はオクターブの枠を作る倍音ですから、実質的には、基音のほかには人間の耳が反応できる音はないのです。

平均律では、基音を定めても、倍音関係を使って他の音を定めることはできません。

このような場合は、どうやって他の音を作るのでしょうか?

それぞれの音の1倍音に頼るしかありません。ピアノのようにあらかじめ12の音が用意されている楽器に頼って、音を一つひとつ確かめていくしかないのです。

ピアノは魅力的要素の多い楽器ですが、これほど盛んな理由の一つには、平均律の基準としての個々の音を提供するという役目もあるようです。

ピアノの音はどうやって決めるのでしょうか?

ピアノの調律は、唸りの処理という、技術は要しても機械的な処理によって決まるのです。

平均律とは、音と音の関係に(2倍音を除いて)耳が関与しない、純粋に机の上で作り上げられた極めて人為的な音律なのです。

この世界は、オクターブという枠組みを除けば、個々の絶対音の世界です。

絶対音高で100セントの区別がつけば、絶対音感という音楽の特別な才能があるとされる世界なのです。

平均律の理論は16世紀頃からあるようです。誰かは思いつきそうな理論ですが、考えようによっては極めて異質な音律です。

音律の基本的な考え方は、有限個で音律を組立てるという、本来は無理なことをしようとするときに、払うべき代償と、残すべき倍音という相反する両者をいかに扱うかというものでした。平均律では、残すべき倍音が最低の2倍音だけということになったのです。

2倍音だけの、自分からは音を作り出すことのできない音律も、出来上がった音を聞く分には、ほとんど違和感はないようです。

音の扱いやすさに目を付けた商業主義があっという間に世界を席巻しました。19世紀後半の調律技術の確立により可能となったピアノの大量生産販売が、その普及に大きな役割を果しました。

純正律の音を基準とするときに、平均律、ピタゴラス音律の音の誤差(セント)は、

レミファソラシの順で

平均律では      -4,+14,+2,-2,+16,+12

ピタゴラス音律では  0、+22、0、0、+22、+22

となります。

ピタゴラス音律を基準とすれば、平均律の音の誤差は、

-4、-8、+2、-2、-6、-10

ですから、平均律がピタゴラス音律にそっくりなのは当然ですが、

平均律は、ピタゴラス音律よりも、純正調により近いように思えます。

ファとソは2セント差という、ほとんど0といってもよい誤差に抑え、ミの音もピタゴラス音律より8セントも純正に近づき、他の音も極めて狭い範囲に誤差を抑えて、それでいて全ての音が狂っている平均律は、純正律の贋作ともいえるのです。限りない転調の自由を持った偉大で超一級の贋作なのです。

欧米のことわざに、大勢の人を短期間だますことはできる。少数の人を長期間だますこともできる。しかし大勢の人を長期間だまし続けることはできない。というのがありますが、平均律は大勢の人を長期間だまし続けているのではとも思えます。

もう一つの無理数の振動数比を持つ音律

中全音律という音律があります。基音の2オクターブ上の音から×5/4の音をとり、Aの4乗が×2×2×5/4となるようなAを求めれば、Aは5の4乗根となります。振動数比を5の4乗根で表す音を、この音律の5度(完全5度と6セント差)とするのです。

そうすると8個の純正長三度が得られますが、11個のこの音律の5度を作ったあとの、辻褄合わせの5度は36,5セントも広くなり、58,5セントも汚い長三度を4個作り出します。

この音律は、15世紀頃から19世紀まで、主に鍵盤楽器で使用された音律で、バッハ以前の西洋音楽の核となる音律です。ある程度転調ができるので、転調の難しい純正律の代用品として使用されてきました。

注目すべきは、ここにすでに無理数の概念が入っているということです。この音律が平均律成立の大きな基礎になっています。

西洋音楽の歴史とは無理数の音の歴史でもあるのです、

 

1ダース対2ダース対3ダース

平均律の音の数は1オクターブ12個です。ピタゴラス音律と、ピタゴラス音律の亜型(2~3時にピタゴラスコンマだけ短い5度がくる)も、基本的には1オクターブ12個の音律ですが、基音の移動が、時計回り、反時計回りともに、6個までとすれば、音の数は24個になります。純正律は同じ条件で、音の数は36個になります。

3ダースの音は、ピタゴラス音律亜型の主に赤い点が、2セント差で音を増やしたものですが、2セント差という音程差は、人間の耳が容易に認知できるものではありませんから、2ダースの音に集約することができます。

この2ダースの音を使う鍵盤楽器制作に、19世紀のドイツで挑戦した日本人がいます。田中正平です。平均律を軸に、パイプの長さを磁石の力で変化させて擬似的にnが48の平均律(通常はnが12)をつくります。nが48の平均律では基本単位が25セントとなり、通常の平均律の音の上下に25セント差の音をとることができるので、これを使えば近似的に上の2ダースの音を摸することができるのです。

長三度は、通常の平均律で+14セント、nが48の平均律では-9セントとなりますが

田中正平のいわゆる純正調オルガン(実際は平均律オルガン)ではもっと純正に近かったかもしれません。

しかしながら、この2ダースの音では、ピタゴラスコンマで分けた白鍵部分が難点となります。ピタゴラスコンマの音程を把握した上で、2つの音を自由に使い分けることはできないのです。ピタゴラス音律の亜型は、(12音限定の場合を除いて)白鍵を2つに割る形では成立しないようです。

狭い5度を挟んで、長3度(×5/4)の音程を利用できればよいのですが、それでは3ダースの音の集団に戻ってしまいます。2ダースの音は、♯と♭で違う音を持つ時代もありましたが、結局は1ダースの音に集約される運命だったようです。

3ダースの音は、2ダースの音に集約することはできませんが、その音の数の多さと、2セントという狭い音程差からみて、有限個の音から音楽を作るという考え方からは離れたほうがよさそうです。制限付きですが、基音は赤い点、黒い点の中から選び、それぞれ新しい相対音のセットで音楽を作るとするのです。

そうすれば、音楽は、現実的な数の音から構成するか、または、赤い点、黒い点の基音に対する相対音のセットから構成するかのどちらかになります。

前者はいわゆる楽器のためにあり、後者は語り歌う人のためにあります。

選ぶ相対音は、5倍音まで(5 limit)となります。

ピタゴラス音律上で、耳が感知できる音程差は完全5度だけですから、基音の移動は、上下ともに、一つづつが原則になります。

有限の音で構成する場合は、1オクターブの音の数は1ダースが基本になります。1ダースで構成する音律は、すべてピタゴラス音律を源とします。これらの音律は、3、5倍音を出来るだけ生かすために、また転調をより自由にするために、ピタゴラスコンマをいかに処理するかという永遠の命題を抱えます。倍音を犠牲にして、全く自由になることもできます。ジャズのピアノのように成功しているものもありますが、平均律に逃げるのは、基本的には楽器の敗北とも思えます。

全ての音を、基音に対するものとすると、

それらの音は有理数の振動比で得られるものと、無理数の振動比で得られるものに分けることができます。実数の世界では、無理数の数が有理数の数より圧倒的に多いのですが(どちらも無限)、有理数の振動比の音と無理数の振動比の音の、有無、範囲により、音律(音楽の音の仕組み)はそれを構成する音により、次のようにわけることができます。

①無理数の音のみ

②無理数の音と有理数の音(2倍音のみ)

③無理数の音と有理数の音(2倍音と5倍音)

④有理数の音(2倍音と3倍音)

⑤有理数の音(2倍音と3倍音と5倍音)

⑥有理数の音(制限なし)

混沌から秩序への順です。

②は平均律、③は中全音律、④はピタゴラス音律(2のa乗×3のb乗)⑤は純正律(2のa乗×3のb乗×5のc乗)⑥は2のa乗×3のb乗×5のc乗×7のd乗、(2,3,5,7,は素数列。a,b,c,d,は任意の整数)の音を自由に操る神の音の世界です。

①と⑥は除いて、上の分類を経時的に並べなおすと

①有理数の音(2倍音と3倍音)

②有理数の音(2倍音と3倍音と5倍音

③無理数の音と有理数の音(2倍音と5倍音)

④無理数の音と有理数の音(2倍音のみ)

これが西洋音楽のたどってきた道です。

すなわち

①ピタゴラス音律

②純正律

③中全音律

④平均律

の順になります。

こうやって並べなおすと、ピタゴラス音律から純正律はいいとして、その後は秩序から混沌への道なのです。

ところで、①ピタゴラス音律、②純正律、③中全音律、④平均律と四つの代表的な音律を並べましたが、本当は、②純正律を、他の三つと同列に並べることには、基本的に無理があるのです。

①ピタゴラス音律の音は(2のa乗)×(3のb乗)で表せる2次元の音です。

③中全音律と④平均律の音も、定数3の代わりに、(2×5の4乗根)、(2×2の12乗根の5乗)という新しい定数が入るだけですから同じ2次元の音です。

ところが、②純正律の音は、レ、ファ、ソは、(2のa乗)×(3のb乗)で表せる2次元の音でが、ミ、ラ、シは(2のa乗)×(3のb乗)×(5のc乗)という3次元の音になるのです。

他の三つの音律と違って、この3次元の音を含む音律が、実用的に使われた時代はないのです。

(2のa乗)×(3のb乗)×(5のc乗)、のcは、a,bと違って、-1,0,1の三つの値しか取りませんが、人間は、このほとんど2次元といってもよいような3次元の音さえ、自由に操ることはできないのです。2次元の音も、実際に使えるのは僥倖に恵まれた面が大きいわけですから、少しでも3次元の音となるとほとんどお手上げなのです。

ピタゴラス音律をゆがめることで、3次元の音の存在に気付いた人間は、3次元の音の影を2次元のピタゴラス音律の上で追い求めてきたのです。ピタゴラス音律の原型をなるべく崩さない形でという条件付きでは、そもそも限界がありますが、中全音律を経て、平均律というのが終着点になっているのです。

倍音関係を優先すれば、全体の枠組みを大きく設定することはできません。全体の枠組みを大きく設定すれば、倍音関係に負の影響がでます。しかしながら、2次元で音の世界を組み立てるとなれば、どうしても平均律が終着点となることは、避けられないのです。

倍音関係にあまりとらわれず、音色優先でいく場合もあります。音の強弱、リズムで耳を引き付ける方法もあります。音楽の世界といっても、その立つ位置によっていろいろなのです。しかしながら、楽音に限っていうならば、音の基本が倍音関係にあるというのは確かなことなのです。

 

 

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